東京地方裁判所 昭和42年(ワ)7890号 判決 1968年10月23日
原告 月村繁一
右訴訟代理人弁護士 武田凞
同 武田峯生
被告 山中正市
右訴訟代理人弁護士 笠原慎一
同 井原一
主文
被告は原告に対し、別紙物件目録第二記載の車庫一棟ならびに同目録第三記載の建物一棟を収去し、同目録第一記載の土地を明渡せ。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は仮に執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は主文一、二項同旨の判決と仮執行の宣言を求め、請求の原因として、
一、別紙物件目録第一記載の土地(以下本件土地という)は原告の所有で、昭和二一年五月二三日、訴外山中愛之助に期間二〇年、普通建物所有の目的で賃貸したものであるが、昭和二九年四月一一日、被告が賃借人の地位を引継いだものである。
二、右賃貸借契約は昭和四一年五月二三日満了したので、原告は予め同月一七日付、一九日到達の書面で更新拒絶の意思表示をしたうえ、満了後明渡を求めたが被告はこれに応じない。
三、被告は本件土地上に賃貸借期間満了時には別紙物件目録第二記載の木造トタン葺堀立式の車庫(以下本件車庫という)のみ所有していたが、期間満了後である昭和四二年九月二日に同目録第三の建物を建てた。
四、よって原告は被告に対し、右車庫と建物の収去と本件土地の明渡を求める。
と述べ、被告の建物存在による契約更新の抗弁を否認する、本件車庫は借地法上の建物とはいえないと述べ(た)。証拠≪省略≫
被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁および抗弁として、
一、請求原因事実を認める。(ただし被告が賃借権を訴外山中愛之助から承継したのは昭和二九年三月一日である。)
二、本件車庫は、太く頑強な丸太を柱とし、屋根はトタンで葺かれ、その周囲は六尺のトタンで張りめぐらされて居り、その構造全体は土台こそないが堅牢であり借地法上の建物に該当する。そして被告は昭和四一年五月二一日に契約の更新を請求したから契約は更新されたものである。
三、かりに本件車庫が借地法上の建物に該当しないとしても、本件土地に被告が建物を建築しなかったのには左のような特殊な事情がある。
即ち本件土地は現在東京都施行の土地区画整理事業施行区域内にあり、昭和三二年三月一三日仮換地指定を受けたものである。そして被告は従前の土地上に居宅二棟、車庫一棟を所有していたところこれらは仮換地として指定された本件土地外にあったため、昭和三三年四月一九日同建物の移転除去命令が発せられ、被告は同年一一月六日これらをとりこわし、その後本件土地上に木造建物を建築しようとしたところ、本件土地は防火地域に指定されており耐火構造以外は許されず、やむなく本件車庫を建築して貸ガレーヂ業を営み、かたがた鉄筋ビルの建設を計画し、その資金の調達に奔走し、ようやくその見込みが立つに至って本件土地の賃貸借期間が満了するに至ったものである。
(1) 借地法第四条の更新請求権は借地権者の保護を計ったものであるから、右のような事情を考慮するとき、たとえ契約期間満了時に建物が存在しなくても、被告の更新請求により賃貸借は更新されたとみるべきである。
(2) 本件土地はまだ換地処分の公告前の仮換地指定中の土地であるから、被告は土地区画整理法九九条により本件土地の使用収益権を有する。
即ち土地区画整理事業施行区域内の賃借地につき、従前の土地上の建物が移転除去命令により除去されて後、賃借人が仮換地上に建物を所有しない間に賃貸借期間が満了する事態が生ずることは少なからず予想されるが、このような場合でも賃借人に仮換地上の使用収益権を保有させて土地区画整理事業に協力することにより生ずる不利益を免れさせ、同事業の促進を計ることが同法九九条の趣旨である。
よって少なくとも換地処分の公告があるまでは契約上の期間満了やその際の建物の有無にかかわらず賃借人の使用収益権は消滅しないものと解するべきである。
と述べ(た。)証拠≪省略≫
理由
原告主張の請求原因事実については当事者間に争いがない。(被告の賃借権承継の日については請求の当否に関係がないからふれない。)
そこで被告の抗弁および法律上の見解について判断する。
まず本件車庫が借地法上の建物に当るかであるが、同法にいう建物とは宅地に定着して建設された永続性を有する建物で屋蓋、周壁を有し、住居、営業、貯蔵またはこれに準ずる用に供されるものであって独立した不動産として登記されるものでなければならないと解されるところ、≪証拠省略≫によると、本件車庫は地面に直接丸太を建て、上方を自動車に雨がかからない程度にトタンで蔽ったにすぎない堀立式のものであり、到底同法にいう建物とはいえない。
つぎに建物がなくても更新請求ができる旨の見解は、借地法の明文に反し主張自体失当であるし、土地区画整理法九九条は単に借地人が従前の土地上に行使しえた使用収益権能を仮換地上に引き続いて行使しうることを定めたにとどまり、民法借地法等により賃貸借契約が終了することを禁じたものとは解されないから、この点に関する被告の主張も失当である。
よって原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 北沢和範)